言論NPOとは

令和7(2025)年度事業計画

 自由で開かれた世界の経済システムは壊れ、大国が勢力圏を競う光景が広がり始めた。

 デジタルやAIによる新しい経済の発展は地政学的対立に影響され、そして多くの民主主義国が、ポピュリズムの試練に直面している。

 私たち言論NPOの新しい年の目的は、こうした歴史的な困難に真正面から立ち向かい、未来の展望を切り拓くことにある。

 私たちが、多国間主義の旗を高く掲げ、この日本から世界有数の10カ国のシンクタンク代表と共に世界にメッセージを毎年、出し続けるのは、日本こそが、この流動化する世界の未来に向け役割を果たすべき、と考えるからである。

 私たちが求めるのは、ルールや人間の尊厳が守られ、民主主義の価値が尊重される世界である。世界は多くの困難の解決に力を合わせ続けるべきであり、混乱する世界の中でそうした秩序を求める新しい外交の動きこそ必要と考える。私たち民間のチャレンジこそが、そうした環境作りを先導すべきである。

 今年掲げる私たちの事業は、この姿勢を貫くために、これまでの取り組みからさらにもう一歩、大きく踏み出すものである。


 私たちが今年、取り組むのは3つの課題である。

 一つは、世界が多国間主義で結束するために、世界10か国のシンクタンク連携をさらに深め、この日本を舞台にした共同の取り組みを拡大することである。そして、日本を舞台にした世界への発言の取り組みにアジアを加えるため、アジアのシンクタンクや次世代リーダーとのネットワークを構築することである。

 二つ目は、課題解決の意志を持つ世論喚起に向けた言論空間の立て直しである。

 インターネットを主体にした日本内外の言論環境は多くの国民や不安に迎合した声やフェイクニュースが溢れており、多くの知識層が発言し難くなっている。私たちの取り組みは国内外の多くの知識層の発言を可視化し、言論環境の活性化に寄与することである。

 そして、最後が最も大きなチャレンジとなるが、言論NPOを、世界を代表する「DO-TANK」(行動する頭脳集団)として脱皮させることである。

 この脱皮とは、経営基盤と組織のあり方を、上記2つの目的を達成できるように再構築することである。

 私たちは昨年までの取り組みで、会員基盤の抜本的な見直しと多くの知識層の参加が、安定的で機能的な経営基盤を作り上げるため不可欠と結論付けたが、その実行が今年の最大の目標となる。ここで私たちはこれまで達成できなかった「言論NPOの固定費の全額を会費や寄付で賄う」という目標の達成に再度、挑むことになる。

 そのために、法人会員制度を見直してパートナー法人会員と一般の法人会員に設定し、パートナー法人会員については、グローバルな人脈づくりや世界課題でのラウンドテーブルでのディスカッションや各種の勉強会を提供する等、新しい独自の制度設計を行い、法人会員を増やすために意識的に取り組む。同時に、個人会員についても、会員間が交流できるコミュニティとしての機能を強化し、会員増に取り組む。

 そして、3年後、公益法人化を軸にした組織への脱皮の道筋をつける。


「東京会議」をさらに発展させるために、シンクタンク間の協力強化と、次世代リーダーとの連携を実現する

 私たちがこれまで中心的な課題として取り組んだ、「東京会議」と「東京―北京フォーラム」の世界会議化は、多国間主義を旗印に世界やアジアの平和や繁栄を話し合う場として、世界的な存在感を得ることに成功したが、これで私たちの目標が達成したわけではない。

 私たちは、「ミュンヘン安全保障」のように世界の課題解決や政府間外交に影響力を持つ日本発の会議を目指しており、アジアに軸足を置いた会議としての存在感をより強化する必要もある。

 今年はその目的に挑むため二つの取り組みを実現する。

 まず、「東京会議」に参加する世界10カ国のシンクタンク間の協力をさらに強化すること、そして、アジアのシンクタンクや次世代リーダーの連携を実現することである。

 「東京会議」には私たち日本のほか、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダのG7各国に加え、インド、ブラジル、インドネシアの10カ国の世界を代表するシンクタンクのプレジデントが出席している。すでにこれらのシンクタンクとは協議が始まっており、言論NPO側より各シンクタンクの研究員に対して専門家調査への協力と、「東京会議」に出席できる各国の次世代リーダーの政治家の紹介を依頼している。

 実現すれば、「政治家」セッションを「東京会議」に加えることができるほか、世界の課題に世界の専門家の意見を適宜表明する態勢が整うことになる。

 アジアのネットワークは、「東京会議」の参加団体であるインドネシアとインドが中核だが、その他、シンガポール、フイリピン等に広げ、次世代ネットワークやシンクタンク間の協力を進めるための協議を始めることになる。

 これに対してこの一年で日本側の態勢も強化する。すでに岸田文雄・前総理が「東京会議」の最高顧問に就任しているが、世界課題と日本外交のあり方を考える政治家の会議や、「東京会議」のアドバイザリーコミッティである評議会の強化や、世界の課題に関する国際協力の評価を考える専門家チームの発足を進める。

 これらは、言論NPO自体の3年後の組織改革と連動し、最終的に「DO-TANK」としての言論NPOの新しい組織に集約されることになる。

 一方、この「東京会議」の国内での理解力を広げるための作業も強化する。世界の課題を考えるためのフォーラムや勉強会なども計画的に拡大し、「東京会議」の議論に繋げる。


次の10年のスタートとなる「東京-北京フォーラム」に向けて、日本自身がグローバルビジョンを固め、攻めの対話を実現する

 「東京-北京フォーラム」は今年が21回目であり、30回目に向けた次の10年の開幕を今年の11月に北京で迎えることになる。

 地政学的な対立や米中対立の中で、日中関係の今後には不透明感があり、それが今現在、フォーラムの準備に影響を及ぼしている。

 北京でのフォーラムは安全性の理由から渡航を断念する人も多いが、日中の最も影響力を持つ対話となっており、世界やアジアの未来に真剣に立つ向かう対話として、その存在力をさらに向上させることが、今年の最大の目的である。そのためにも、このフォーラムを軸に議論に参加する各団体とのネットワーキングを拡大すること、また、我々の議論が中国国内にも広げるための取り組みを行うつもりである。

 我々の立ち位置は、ルールベースの秩序と多国間主義であり、この立ち位置からどのような世界を目指すのか、戦略的互恵関係の具体化に向けた議論を始めたいと考える。

 そのためには、日本自身がグローバルビジョンを固めることが不可欠であり、そうした国内や世界との議論を踏まえて中国との対話を設計し、攻めの対話を行う。

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言論空間の立て直しに向けた2つの取り組み

 今年の二つ目の課題は、言論空間の立て直しに向けた努力である。

 感情的な声ではなく、課題解決の意志を持つ冷静な輿論の形成に向けて努力することは、民主主義社会を維持するための不可欠の作業であり、言論NPO創設時からの使命の一つである。

 世界の民主主義国と同様に、日本でもインターネット空間にポピュリズム的な議論や陰謀論的な議論、高度なフェイクニュースが広がり、それが政治家への判断に影響している。

 この状況を放置することは日本の未来の可能性を潰しかねず、この問題に意識的に取り組むことを我々の二つめの作業としたい。

 この点で、今年、取り組むのは二つである。

 一つは日本が直面する政策課題で日本や海外の多くの有識者の声を様々な形で公表すること、もう一つは継続的に国内や世界の政策課題に関する議論をフォーラムや勉強会の形で行い、その内容を動画やSNSの空間で計画的に公表することである。

 世界的な課題では世界のシンクタンクと連携する作業を進めており、それが実現することで、世界の声を適宜公表できるが、国内の課題でも日本の各分野の専門家の声を有識者のアンケートの形で、無記名と記名を使い分けて公表する。

 私たちが2019年まで行っていた政党のマニフェスト評価や、私たちが取り組む民間外交には多くの人に協力いただいているが、その作業に協力していただいた400名以上の専門家がその対象となる。

 また、議論の発信として、今年予定する一般フォーラムや勉強会は、その分野の専門家の参加で年間30回程度を考えている。

 我々がこうした作業に取り組むのは、インターネット主体の言論空間の中で有識者の多くが発言を抑えており、健全な言論空間が機能していないことが背景にある。

 世界的な危機が広がり、その中でこの国の未来が不透明になる中で、多くの専門家が声を上げ、それを分かりやすく伝える。そうした声が広がることが、市民が今の課題を考える判断材料となり、それが課題解決の意志を持つ輿論に繋がると考える。


世界の課題に取り組む「DO-TANK」に向けて、言論NPOの脱皮を進める

 最後の課題は、私たちが目指す世界の課題に取り組む「DO-TANK」に向けて、言論NPOの脱皮をどう進めるかである。

 この課題は今年の取り組みの最も大きな課題であり、3年後の組織の本格的なバージョンアップに繋げる鍵になるものである。

 私たちは世界の多くの非営利、独立のシンクタンクがそうであるように、世界を代表する世界会議を運営できる組織力を持つ、行動するシンクタンクに、言論NPO組織を脱皮させようと考えている。

 その中で今年、とりわけ最優先で取り組むのが、法人会員制度を新しく確立して、我々の組織の中核のメンバーに位置づけるということである。

 我々が目指す世界での行動は、現状の混乱した世界の中では企業にとっても目指すべき共有の課題だということを意味している。

 混迷する世界の中で対話を通じて信頼関係を築き、多くの課題に世界が力を合わせて作り上げていく国際協調の姿こそが、自由な経済の中で成長を遂げようとする日本にとって欠くことができない基盤だからである。

 この十数年、私たちの主要な事業である「東京会議」や「東京-北京フォーラム」を支えていただいたのが企業の支援である。言論NPOの18名のアドバイザリーボードの半数は企業経営者であるが、これまでの会員制度は基本的に個人会員が主体で、独自の法人会員のサービス体系は十分に整備されていなかった。

 この状況を大きく変えて会員制度を見直すことが今回の提案である。


法人会員制度の見直しと、個人会員も増やせる仕組みづくり

 今回、私たちが定める法人会員制度は、パートナー法人会員と一般の法人会員で構成する。パートナー法人会員は、グローバルな人脈づくりや世界課題でのラウンドテーブルでのディスカッションや各種の勉強会が提供される、新しい制度である。

 この他、「東京会議」を応援する法人会員と「東京-北京フォーラム」を応援する法人会員が設定され、それぞれが世界会議の参加だけではなく、パネリストとのネットワーキングや非公開の会議も傍聴できる。

 これに対して個人の会員はこれまで通り、基幹会員(メンバー)と一般会員と学生会員で構成され、会員種別によって言論NPOが提供する年間24回の専門家による言論フォーラムや勉強会に無料と割引価格で参加でき、会員間が交流できるコミュニティとしての機能を重視している。

 個人会員も法人会員と同様に「東京会議」や「東京-フォーラム」に優先的に参加でき、言論NPOの世論調査などのデーターが閲覧できる。

 今年の取り組みでもう一つ大きなものは、言論NPOの様々な取り組みに簡単に参加できる言論NPOのWEBサイトのリニューアルが、新法人会員制度も含めて9月1日から完全稼働することである。

 ここでは、これまでできなかった会員入会や寄付や全てのフォーラムの参加が自動でできるようになる。

 言論NPOへの参加は、言論NPO活動に興味を持った人が、無料登録するところから始まり、多くの議論を傍聴したり、参加するために個人会員になる。こうしたサイクルを今年度、稼働させるためにも、会員サービスに簡単に参加できる仕組みが必要なのである。

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言論NPOの取り組みに、メンバーの皆様にもぜひご協力ください

 言論NPOの今年の取り組みは、混乱する世界の中で多くの課題に各国が力を合わせる国際協調を多くの人と一緒に作り上げ、立て直すことです。しかし、その中でも、特に全力で取り組むのは、こうした世界的な取り組みを持続的に行える、次世代を意識した組織改革を始めることです。

 新法人会員を中心とした会員制度の実現は、その土台となるものです。

 そして、何よりも今年、その制度に基づいて多くの会員を増やすことが、私たちの最大の目標となります。

 同時に、次の世代を意識した組織改革は昨年度と同様、女性や若い世代の活用を含めて、意識的に取り組んでいきます。

 まだまだスタッフ体制も不十分ですが、この3年で計画的に増員し、さらに理事や副理事、様々なフォーラムや勉強会の企画を考える運営委員など、メンバーの皆さんに協力をお願いすることもあります。

 是非とも世界やこの国の未来のために一緒に行動し、我々の使命を実現していきましょう。


令和7(2025)年度の言論NPOの年間スケジュール

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9月から開始する法人会員制度

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